シェル美術賞では、作家の未来を応援する企画「シェル美術賞 アーティスト セレクション(略称SAS)」を2012年よりスタートし、本年は第5回を開催することとなりました。
本企画は、当社が主催する「シェル美術賞」の過去受賞・入選作家を対象に、今後の活躍が期待される作家を前年度の審査員と昭和シェル石油により4名選出し、新作・近作の作品展示機会を設ける事を通じて、若手作家の活動をサポートすることを目的に実施しています。
シェル美術賞展2016の会場内にコーナーを設けて展示いたしますので、是非、お楽しみください。
本江邦夫審査員長推薦作家 - 中山 徳幸
- 1968年 長野県生まれ
- 1993年
- 武蔵野美術大学芸術学部油絵科卒業
- 2004年
- 「シェル美術賞展2003≫2004」入選
- 2005年
- 個展(イムラアートギャラリー・京都)
- 2006年
- 「VOCA 2006 -新しい平面の作家たち-」(上野の森美術館・東京)
- 2007年
- 個展(Gold inside・ソウル/韓国)
- 2008年
- 個展(Galleri S.E.・ベルゲン/ノルウェー)
- 2012年
- 個展(イムラアートギャラリー ・東京)
- 個展(ガレリア表参道・長野)
- 2014年
- 個展(日本橋高島屋6階美術画廊X / 新宿高島屋美術10階画廊・東京)
■参考作品
「tomorrow」
■作品・製作について
私が美大生だった頃は、絵画は死んだと言われていた。特に具象絵画は古臭く現代美術には遠い存在だった。そのような状況でも具象絵画しかできなかった私は苦悩したが、試行錯誤の末、人物の顔をクローズアップで切り取り、古典技法を応用して描くという描画方法を採用した。少しでも現代美術に近づきたかった。美術史的文脈も自分なりに用意しながら制作に臨んだ。
ルネサンス絵画的な省略と誇張、ポップアートを意識した構図は、技術的な未熟さも手伝ってか、自分の意図に反してイラスト、CG、アニメ的と言われた。そのおかげか'00年代の流行に乗ることができ世間に受け入れてもらえたのだが、本当に表現したかったのは、人物を描くことで見えてくる心象風景だった。
世界は大きく変化している。それと同時に私の心に映る景色も変化し続けている。それを理想通りに表現することは至難の技でしかないが、私が画家である以上、答えのない問いを自らに問い続け光を探し続けるしかないのだ。
■本江邦夫審査員長 推薦コメント
あれはいつのシェル美術賞のときだったか、水色の虚空を背につぶらな瞳で上を見上げる少年とも少女ともつかない若者の姿に、不思議に清らかなものを感じて、その前に立ち尽くしたことがあった。とくに新味とか、なにがしかの前衛志向があるわけでもないので、入賞候補には残らなかったが、その言葉のもっとも厳格な意味で絵画の「本道」を、おそらくは信じがたい着実さで歩んでいる無名の若者――これが私が最初に見知った中山徳幸だった。とにかく対象を、修行のそれに近い真摯さでよく見ているのだ。見たものはすぐに、アクリル絵具の微細かつ繊細な、ほとんど透明な被膜としてキャンバスを覆っていく。いくども、これが反復される、その手間が尋常ではない。従って、極めつきの寡作の画家である。堅苦しい響きだが、すべての予見を排除した、現象学的還元とは本当はこういうものではないかとも思う。中山徳幸には、機が熟したらいつかイコンを描いてもらいたい。ここまで霊的なものに満たされた現代の女性像を私は他に知らないのだ。
保坂健二朗審査員推薦作家 - 笠見 康大
- 1982年 福島県いわき市生まれ
- 2009年
- 北海道教育大学大学院教育学研究科教科教育専攻美術教育専修(西洋画)修了
- 2008年
- シェル美術賞2008 入選(代官山ヒルサイドフォーラム・東京、京都市立美術館・京都)
- 2010年
- トーキョーワンダーウォール公募2010入選作品展(東京都現代美術館・東京)
- 2011年
- Asian Art Way 2011 in SHANGHAI(半島1919日本文化村・上海)
- 2012年
- トーキョーワンダーウォール公募2012入選作品展 (東京都現代美術館・東京)トーキョーワンダーウォール賞
- 2013年
- トーキョーワンダーウォール2012都庁(都庁第一庁舎・東京)
- TWS-Emerging 197 笠見康大「骨 戻る 燃える」(トーキョーワンダーサイト本郷・東京)
- 個展-光円錐とその他- (CAI02・札幌)
- 2015年
- VOCA展2015 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち(上野の森美術館・東京)
- 個展-恣意的な、とてもプライベートな-(CAI02・札幌)
■作品・製作について
私は、生まれ育った文化や社会の中で規定された「私」の感情や無意識を描く行為によって表れる色や形などの関係の中で探っています。そして、このようなとてもプライベートな問題が、いかに絵画として成り立つ事ができるのかに興味があります。
■保坂健二朗審査員 推薦コメント
笠見康大の作品を抽象(abstraction)というのは憚られる。といって、具象(figurative)だと言いたいわけではもちろんない。大事なこと、それは、笠見の作品に見られる色を帯びた形は(あるいは形を帯びた色は)、非常に具体的(concrete)だということだ。その意味で笠見の作品は、スイスを中心に今なお強い影響力を持っている「コンクリート・アート」に近いところがある。近いけれども違いはある。笠見の描く形のエッジは、スイスの作品に比べるとずっと柔らかい。また、エッジと形と色、それぞれにおいて、筆触が大きく寄与している。そして、知的なユーモアがある。たとえば以前の作品では、複数の色形が集まることによって、その内側に生まれる余白(地)が、時として図としても見えるようになっていた。そしてそのような空間を、きわめて抽象的な、しかし実際には紙の段差であるという意味では具体的なラインが、切り裂いていた。そのようにして彼が丁寧につくりあげている「世界」を見ていると、私は、枯山水の庭のあれこれを、つい思い出してしまう。
能勢陽子審査員推薦作家 - 下出 和美
- 1983年 石川県生まれ
- 2008年
- 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻油画コース修了
- 2005年
- シェル美術賞2005 入選(代官山ヒルサイドフォーラム・東京)
- 2006年
- シェル美術賞2006 入選(代官山ヒルサイドフォーラム・東京)
- 2007年
- シェル美術賞2007 蔵屋美香審査員賞(代官山ヒルサイドフォーラム・東京、京都市美術館別館・京都)
- 2008年
- アートアワードトーキョー2008(行幸地下ギャラリー・東京)
- 2009年
- グループ展「眼差しと好奇心5」(soka art center・台湾)
- 2015年
- 個展「The song of good bye」(MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w・京都)('07,'08,'09,'11,'13)
- 2016年
- VOCA展2016(上野の森美術館・東京)
■作品・製作について
私は絵を描く時、全体から始めるのではなく部分的に描き進めていきます。部分と部分が連接し、ズレを伴いながら一つの全体が構成されます。その全体は緊張状態の上に辛うじて保たれたものです。私にとって絵を描く事は、風景や人物、さまざまなモチーフを切断し接続することによって世界を再構築する事でもあります。描くことによって、現実の中に潜む違和感やズレを注意深く観察し、この世界の在り方を問い続けています。
■能勢陽子審査員 推薦コメント
子どもが描くような女の子の像と、野原の雑草や雑木林の木などの身近な風景の一部が、縮尺がバラバラのまま、画面を覆う図案のように描かれている。下出和美は、画面に大小の断片を点在させ、それを繋げるように絵画を構成していく。だから、作品内の空間は整合せず、ちぐはぐなパッチワークのような様態をみせる。同時に現れる幾人かの少女たちは、それぞれ干渉し合うことなく浮かない表情をし、あるいは気力のない様子でただ寝そべっている。ひょろひょろと伸びて垂れ下がる雑草と、少女のどうしようもなく退屈な時間は、生命力と無気力があいまって、この世に生を受けたものが否応なく感じる、現実に潜む奇妙な違和感を掬い上げる。周りの風景や日々の生活の中の、なんということのない断片から抽出された孤独なズレの手触りは、くすんだ橙や黄、赤などの暖色系の色使いとあいまって、温かいようで沈んだ、独特の憂鬱感を孕んだ抒情性を生み出す。
昭和シェル石油推薦作家 - 菊谷 達史
- 1989年 北海道生まれ
- 2013年
- 金沢美術工芸大学大学院修士課程美術工芸研究科絵画専攻油画コース修了
- 2010年
- 「アウトレンジ2010」(文房堂ギャラリー・東京)
- 2011年
- シェル美術賞2011 入選
- 「Nomadic circus troupe」(北海道立近代美術館・北海道)
- 2013年
- 個展「UNDRAMATIC」(gallery COEXIST-TOKYO・東京)
- 2014年
- 「虹の麓 -反射するプロセス-」(名古屋市民ギャラリー矢田・愛知)
- 個展「月とグレープフルーツ」(金沢アートグミ・石川)
- 2015年
- 「第18回岡本太郎現代芸術賞展 」(川崎市岡本太郎美術館・神奈川)
- 「3331 Art Fair 2015 ?Various Collectors' Prizes?」(3331 Arts Chiyoda・東京)
- 「神戸ビエンナーレ ペインティングアートコンペティション」審査員特別賞
■作品・製作について
今でもときたま思い出す2つのエピソードがある。
①私が生まれ育った北海道宗谷地区には美術館なんて殆ど無かったけど、幼い頃一枚だけ公民館かどこかで油絵を目にした事があった。浮き球や漁網をモチーフにした静物画でしっかりと描写されたその絵に「本当にあるみたい」と幼心に衝撃をうけた。油絵が伝来した頃の日本人もあんな気持ちだったのかもしれない。
②小学生の頃海沿いの岩場で馬糞雲丹を獲って左右に割ったら中から「コレが本当に自然物か?」と思う程鮮やかな橙色が出現した。それは生物の死骸でグロテスクなのに宝石みたいでとても美しかった。
〈ただ其処に在るという不思議〉と〈例外的な存在への驚き〉という2つの感動は、基本的に今も変わらず僕が絵を描く動機となっていると思う。
■昭和シェル石油 推薦コメント
菊谷達史の絵には単純ではない世界が写し出されている。光と影、現実とその裏側に潜む何か。
彼の切り取るイメージは決して特別なものではない。だがそれは私たちが普段見ている日常ではなく、ドキッとさせられる色合いであり、対峙する二つの世界を同時に見ている、そんな不思議な感覚にとらわれる。
2011年の入選後も意欲的な活動を続けており、今後さらなる活躍を期待する菊谷達史の世界に是非会場で触れていただきたい。
本江邦夫審査員長推薦作家 - 中山 徳幸作品
保坂健二朗審査員推薦作家 - 笠見 康大作品
能勢陽子審査員推薦作家 - 下出 和美作品作品
昭和シェル石油推薦作家 - 菊谷 達史作品